馬頭星雲
元彼が「星を観に行こうか。暖かい服装が必要だよ。」と言った。
研究者の彼は歩く化学辞典だ。
植物でも生物でも星ででもなんでもよく知っている。
私は二つ返事で了承した。
私は深夜、家を抜け出し、迎えに来てくれた彼の車に乗り込んだ。
彼が向かった先は数十キロ先の山の上の広大な敷地。
光が一つもないその場所は、曇っているものの空一面に星が瞬いていた。
彼は「あー、少し雲がかかってるなぁ。」と残念そうだったが、私は雲の切れ目から顔を出す星を眺めて、ひとつずつ全て元彼に質問した。
ミィ「あれはなんていう星?すごく光ってる。」
元彼「あれはふたご座じゃないかな。」
ミィ「あの四角の星はなに?」
元彼「御車座だよ。六角形になってるでしょう。」
元彼は寒そうに私を背後から抱きかかえ、同じ方向がみえるように抱き合いながら星を鑑賞した。
元彼「ほら、ミィ、オリオン座見える?」
ミィ「見えるよ、3つの星が並んでるもん。」
元彼「あの3つの星の近くに馬頭星雲っていう星雲があるんだよ。」
ミィ「馬頭星雲、、、、どんな星雲なの?」
元彼「星雲が馬の頭の形になってるんだ。」
元彼は双眼鏡を取り出して覗き込み、馬の形は絶対見えないけどなぁ、、、と笑いながら、双眼鏡でその星雲を見せてくれた。
そんな彼の口から紡ぎ出される言葉は、私を魅了する。
「不倫のくせに何を言ってんだか」とか「頭がお花畑で」とかそんな言葉が遠くから聞こえそうだ。
でも私は今まさに元彼にメロメロなのだ。