100回の罰
焼き鳥屋さんにカシより先に着いた私は、カウンターに座った。
私はすぐに女将さんにビールを頼んでひと口飲んでいると、カウンター越しの窓からカシが自転車で急いでやってくるのがみえた。
お店の前に駐輪しているカシの元気のなさは遠くからでもわかる。カシは会わないうちに少し痩せて、一回り小さくなっていた。
(カシは思ったよりも堪えたみたい、、、、。)
と思うとカシが愛おしくなった。
店内に入ってきたカシは、すぐに私に気がついて隣に静かに座った。
ぎこちない私達。
私はその場を取り繕うようにいそいそとカシの前にメニューを広げた。
カシはその後、女将さんにビールと焼き鳥のコースを頼み、そして私達は店内のことやメニューの内容などのたわいもない話をした。
オシャレなお店だね、とか、焼き鳥のコースは焼きたての焼き鳥が1本ずつ出てくるんだね、とか、カシの浮気疑惑とは全く関係のない話をした。
ひと通りそんな話が終わった後、カシはそっとカウンターの下で私の手を握った。
手を握られた私は思わず、カシの顔を見た。
カシは笑っているが今にも泣き出しそうな、そんな複雑な顔をしていた。
私はカシに握られていない手で、カシの手の甲を少しつねってカシを少し睨んで言った。
ミィ「私、カシに罰を与える、、、。」
ミィ「1ヶ月のうちに100回、私に『愛してる』って言うこと。そしたら、きっとカシの頭に私のことがすりこまれて洗脳されて、浮気なんて考えられなくなるから。」
カシは、吹き出すように笑って、隣の私を抱き寄せ、すぐに私の耳元で『愛してる、愛してる、愛してる』と3回言った。
私は、そんなカシに
「1ヶ月で100回ってことは、1日3回じゃ足りないんだから。」
と言うと、カシはまた大笑いした。
いつもは嫌がって愛の言葉なんて全然言ってくれないカシがその日は合計5回私に『愛してる』と言った。
そして、カシは最後私に
「心を込めて『愛してる』って言いたいから1年で100回にしてくれない?」
と交渉するほどまで元気を取り戻した。
きっとこれでよかったのだ。
私はカシを愛しているのだから。