執着と同情の行き着く先
カシは距離を置く前に私と会いたいと言った。
私はカシに「どこに行くの?」と聞いたが、カシは「ヒミツ」とだけ言った。
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当日、カシと私は朝の8時30分に待ち合わせた。
私がカシの車に乗り込むと、カシは無言のまま車を走らせた。
私は車内で努めて明るく振る舞ったが、カシは元気がなかった。
カシも私も別れの話は切り出さなかった。
カシはそっと私の手を握ったが、私は振りほどかなかった。
カシの車はどんどん山道を登っていく。
山は紅葉真っ盛りだった。
カシに「本当に日本の紅葉は綺麗ね。日本の紅葉は世界一らしいわ。」というと、カシは少し笑って「落葉樹の種類が豊富なんだろうね。」と言った。
その後、車は視界のひらけた場所に到着した。
そこは山と山の谷間が見える隠れ絶景スポットだった。
カシが車を停めて、車から降りた。
私も続いて車を降りた。
私達の目の前に広がる紅葉は驚くほど素晴らしく、濃赤、赤、黄、橙、茶、緑と数え切れない暖色がまだら状に山を飾っていた。
私が感嘆の声をあげると、カシは「思った通りの紅葉だ。」と呟いた。
カシはそっと私を後ろから抱き寄せて言った。
「ミィがいないと太陽がいなくなったようだ。眠れないし、ご飯の味もわからない。どんなにみっともなくてもいいから、ミィの彼氏でいるうちに全力で別れることを阻止したいと思ってる。ずっと一緒にいて欲しい。ずっと一緒にいて欲しいんだ。」
とカシが私の首に顔をうずめ、繰り返し言った。
私は涙が溢れて止められなくなって、泣きじゃくった。
カシは私を愛しているわけじゃなくただ単に執着しているだけだとわかっていても、私はカシに同情しているだけなんだとわかっていても、もうこれ以上カシを追い詰めることなんてできないと、そう思った。
執着と同情の行き着く先はどこになるんだろう。