付き合ってはいないがじゃれあったりはする男
カシと10日ほど音信不通になった頃、カシから突然ラインがきた。
カシ『寂しい。元気をください。』
あれ?ちょっと連絡早くね?と思ったが、カシがそれほど傷ついていないことがわかって内心ホッとした。
10日で連絡できるんだから、ま、大丈夫なんだろう。
ちょうどその日はカシの演奏会の日。
私はカシに聞いた。
ミィ『今日は演奏会じゃないの?』
カシ『そうだよ、出番はあと40分後かな。』
カシ『少し緊張してる。』
いつも自信満々なカシが珍しい、、、。
ふと私は演奏会に行こうかなと思い始めた。
なんとなく今の状態でカシを遠くから見たらどんな気持ちになるのか知りたくなったのだ。
コンサートホールは車で10分の距離。
40分もあれば、ギリギリカシの演奏だけ聞くことができるだろう。
私は一緒にウィンドウショッピングに行く予定の娘に言った。
ミィ『ねぇ、ママ、ちょっとだけ会場に寄る用事を思い出したから、途中で寄ってもいい?車の中で15分だけ待ってて欲しいんだけど。』
娘は二つ返事で了承してくれた。
車を飛ばしホールに着くとラッキーなことに休憩時間だった。
私はホールから出てくる観客をよけながら入り、さっと席に座った。
その後、私が落ち着かないうちにホールの照明が暗くなり、すぐにカシが舞台に出てきた。
出てきたカシはなんだか以前よりオーラがやわらかくなっているように感じる。
そんなことを思いながらカシを見つめていると、カシは私に気がついたようだ。
カシは舞台の上から私を見つめてニコリと笑った。
カシの演奏が終わって、私はすぐに席を立った。娘との約束は15分。走らなければ。
私が急いでホールから出ると後ろからカシに呼びかけられた。
カシ『ミィ!!』
カシ『来てくれたんだ、ありがとう!!』
ミィ『観にくるって前に約束してたでしょ。だから、、、。』
カシ『これから時間ある?』
ミィ『ううん、娘が車で待ってるの。』
カシ『そっか、、、。』
ミィ『じゃあね。』
カシ『うん、ありがとう。』
その日からまたカシの連絡はなくなった。
律儀に冷却期間を守っているのかもしれない。
私は舞台の上のカシを見つめて、愛おしさは感じるものの、もうカシに深入りはやめようと心に誓った。
『付き合ってはいないがじゃれ合ったりはする男』
カシをそんな位置づけにおくのが一番いいのかもしれない。
定期的な連絡はせずに気が向いた時に会って少し恋愛ゴッコをする、そんな距離感の男にしようとそう思った。